渋滞学 (新潮選書)
- 作者: 西成活裕
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/09/21
- メディア: 単行本
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この本は,かなりお勧め。渋滞というと真っ先に思い浮かぶのは交通渋滞であるが,実はそれにとどまらず,人ごみ,アリの群れ,インターネット,果ては脳内伝達物質の輸送に至るまで,様々な現象に潜んでいる。
ものを作る視点から見ると,渋滞が発生する場所は俗にいうボトルネックになりやすく,製品の仕様や性能を決定づける要因になるだろう。
自己駆動粒子をモデル化して,工学的に応用できる箇所は,本書に挙げられたもの以外にも,まだまだ沢山あるはず。しかし,著者ら研究達者がやることは,あくまで大枠の理論的にオイシイ所でしかなくて,実際に役立つ,現実世界の使用に耐えうるような泥臭いものに落とし込むのは,技術者にしかできないと思う。それは,技術者が優れているというのではなくて,単なる役割,興味,執着度の違いによってである。ものごとを「渋滞」という現象で切り取ったのは素晴らしいことだと思う。この興味深い知識を,リアルに役立たせるためにも是非,技術者には読んで欲しいと思った。
ひとえにそれは,人間の能力の限界に律速されているのかも知れないけれど,近年は研究の分野が細分化,専門化しすぎて,横断的な知識を身につけにくくなっているような気がする。そうでもしなければ,そもそも専門領域での競争に勝てないという過酷な状況もあるのかも知れない。とてももったいないことだ。
このような上流(理学部で言えば下流だが)の知識が,さらに下流の工学の人々にスムーズに流れるような仕組みはできないものか。知識の渋滞学として誰か取り組んでくれないものだろうか。