空想犬猫記

※当日記では、犬も猫も空想も扱っておりません。(旧・エト記)

The Farewell

Burgmüller 25 Progressive Pieces, Op. 100 の 12 曲目。長くて速いフレーズをどのように構造化し、処理するかが課題。隣り合う音符同士は繋がっているので、上達の早いお子様にも弾けそう。

序奏(A)、主題(B)、中間部(C)、コーダ(D)と分けると、A → B → C → B → D という構造になっており、B の部分は 7 曲目「Clear Stream」の派生・発展型ともいえる。C の中間部では、この練習曲集を通して初めてペダルの指示が出てくる。

この曲はこれまでの12曲の中で、最も「感情」と音楽をリンクさせることができる。弾けば弾くほど各フレーズに込められた複数の心の動きが明らかになってくる。「The Farewell」というのは、日本語訳だと「さよなら」である。つまり、この曲のテーマは「別れ」。悲しいシチュエーションの曲なのである。そんな人生のイベントの中で、どのような心の動きがあるのだろうか。この練習曲ではそれが42小節に表現されている。繰り返し記号が無いのも、これがひとつの物語として作られたからではないだろうか。

序奏(A)1~3小節では、静かな悲しみが浮かび上がってくる。客観的な悲しみの表現から4、5小節で主観的な、「ある激しい感情の昂ぶり」が発生する。

主題(B)では、激しい感情が徐々に昂ぶっていく「あれも、これも、そういえばあれも…」見たいな感じで次々と感情の波が押し寄せてくる。この別れに、何か受け入れられないものがあるのだろう。

中間部(C)は、時を遡るか、現実逃避をした「回想シーン」。楽しかった思い出か、この別れを乗り越えた後の未来の希望を想像する。でも最後、長調のハーモニーが崩れ、雲行きが怪しくなり……。

また主題(B)。「やっぱり辛いんじゃー!」

コーダ(D)最高音のAに達して、感情が開放された後、同じ最高音のフレーズをデクレッシェンドしながら繰り返す。p からさらにデクレッシェンドして、旋律は最高音の A に達する。ここの部分は天才的だと思った。あれ?落ち着いたのか?果たして結論は如何に?と来たところで、f +スタッカートでジャ、ジャーンと終わる。この物語、主人公は最後でにきっぱりと負の感情から決別して別れを乗り越えたことが、スタッカートで読み取れる。