空想犬猫記

※当日記では、犬も猫も空想も扱っておりません。(旧・エト記)

テロリストのパラソル (角川文庫)

文庫が出たみたいなので,読んでみた。この本が出たのは,確か高校生の頃だった。クラスに一人,この本をハードカバーで読んでる奴がいた。タイトルがとても印象的だった。

その時の会話は,今でも覚えている。昼休みか弁当の時間に,暇だったので読書の邪魔をして話しかけたのだ。

「それ,面白そうだね。どんな話?」
「まぁ,テロリストが,国家を転覆させようってするタイプの話。」
「へ〜,それってうまくいくわけ?」
「こういう小説の常として,大抵は失敗に終わるものなんだよ。」

江戸川乱歩賞と,直木賞のダブル受賞作品ということを後から知って,ずーっと気になっていた。そして,ストーリはもちろん「国家転覆」なんだと思っていた。十余年の歳月を経てハッキリしたことがある。その友人は,読書の邪魔をする私を適当にあしらっていたということである。

テロリストのパラソル (角川文庫)

テロリストのパラソル (角川文庫)

ミステリーを楽しむには,テレビと同様「何も考えず」に,繰り広げられるストーリーをただ感じてれば良いと思う。始めのうちはそれができた。しかし途中から邪念が入ってしまう。

この手の話は,まず魅力的な舞台描写,魅力的な人物描写があって,それらの登場人物が限られた枚数の中で,それぞれの設定を逸脱することの無いように動き,そしてそれが傑作と呼ばれるものであればあるほど「綺麗に」まとまり終局を迎える。なので,その前提で読むと 250 ページあたりまでで,ちりばめられたピースを綺麗にまとめたら,オレ結末が構築されてしまって,実際,その通りになった。その通りになったけど,誰も誉めてくれないし,喋っても誰も喜んでくれないし,あんまりいいものじゃないなと思った。

それ以外の側面としては

  1. (大学で一番最初に勧誘された)M青同盟とかいう懐かしいサークル名が出てきた,とか
  2. 同時代小説として,ノスタルジィをかき立てる,とか
  3. 塔子のツンデレっぷりが時代を先取りしている,とか

最後の点だけとっても,読むに値するものがあると思う。